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不整脈とオステオパシー(施術事例紹介)


十年ほど前のことになりますが、オステオパシーの施術によって不整脈が改善した症例がありますので、それについて書きたいと思います。

 

当時、私は病院で心臓リハビリをしながら、ひっそりと、オステオパシー施術も行っていました。

 

不整脈が改善したと明言できたのは、心電図モニターでモニタリングを行いながら施術をしていたからです。

 

 

その人は、30年前に心臓の手術(人工弁置換術)をしており、その後大きな交通事故にも遭い、長年の体調不良を訴えていました。そして、不整脈が徐々にひどくなり1ヶ月後に他の病院で手術をする予定でした。

 

その人の場合は、正常脈と異常脈が、常に交互に繰り返している「二段脈」という種類の不整脈でした。心臓が収縮しているのにも関わらず、2回に1回の割合で、“空振り”していて、血液の流れが悪い状態です。

 

体は大きく左側に傾いており、背骨から頭部にかけてとても硬く、胸郭の動きもかなり制限されていました。手術による胸郭内部の癒着をとても強く感じました。

 

オステオパシー施術の目的としては、硬くなっている背骨・肋骨・胸骨・横隔膜などを柔らかい状態にして、心臓を取り巻く環境を改善することでした。

 

何回か施術をしているうちに、施術前にはあった不整脈が、施術後に完全に消失していることに気づきました。そこで、施術中にどの様にして不整脈が消失しているのかを、心電図モニターで確認することにしました。

 

試しに、足の施術をしても脈拍は変化せず、頭部の施術をしても変化せず、不整脈が改善するのは、上半身の背骨の施術をしている最中でした。また、背骨に軽く触れた程度では、不整脈に変化は起こりませんでした。背骨を「スティル・ポイント」という状態に導くことで、徐々に不整脈が減少していくことがモニター上で確認できました。

 

「スティル・ポイント(静止点)」というのは、オステオパシー施術の中で起こる生体反応の一つで、体の組織のバランスが取れて「静かになっている状態」のことを指します。

 

施術後は必ず不整脈が消失するのですが、次の日にはまた元通りの二段脈の状態に戻っていました。そこで、施術後もそのままモニタリングを続けてみることにしました。

 

最初のうちは、施術後しばらくすると徐々に不整脈の数が増えていき、最終的には元の二段脈に戻っていましたが、施術を続けるにつれて不整脈のない時間が、30分、1時間、2時間と続くようになっていきました。

 

1ヶ月ほど経過すると、心臓を取り囲む組織や骨格が柔らかくなり、体の左側への傾きも少なくなっていきました。施術前でも不整脈の数が大きく減少しており、二段脈とは呼べない状態にまで改善していました。

 

二段脈というのは、本来のペースメーカーではない場所の心筋細胞が、何らの原因によって正常なリズムを追い越して活動することで起こります。

 

オステオパシー施術によって、その心筋細胞に直接働きかけたわけではありません。

心臓を取り囲む「窮屈で不自由な環境」が、「快適な環境」へと改善したことで、心臓が活動しやすくなった結果であると考えられます。

また、自律神経に影響していた上半身の歪みが改善したことも、少なからず関係があると考えられます。

 

全ての不整脈の原因が体の歪みから起きているわけではありませんが、体の構造異常が、心臓の機能異常にも関連しているケースがあるという事実を、心電図モニターで確認できた貴重な体験でした。

 

施術回数が増えるにつれて、もう一つ貴重な体験がありました。

その日の施術の終わりがけに、その人の心臓の鼓動がハッキリと聞こえることが数回ありました。

通常、他人の心臓の鼓動は聞こえないのですが、その人は人工弁であったため、人工弁の繊維が擦れる音が聞こえることがあるのです。

 

施術の後半に、静かな室内に、カサッ、カサッ、カサッ、カサッ、カサッと、律動的なリズムが響き渡り、私にも、その人自身にも、少し離れている第三者にもハッキリとその鼓動が聞こえていました。

 

オステオパシーの教えの中で、「スティルネス(静寂)」と呼ばれている状態があります。

「静寂」なのですが、穏やかさと同時に生命の力強い表現がなされている特殊な状態です。上記の状態は、今考えると、「スティルネス」の状態にあったということなのでしょう。

 

最後になりますが、その人は、予定通り手術を受けるために転院していきましたが、不整脈が減少していたので、手術の必要性がなくなり、手術を受けずにそのまま戻ってくることになりました。

その人は私に、「本当は手術を受けたかったのに。」と残念そうに言われました。

 

原因となっている心筋細胞を消滅させようと考える西洋医学と、健康な環境を創造しようとするオステオパシーには考え方の違いがあり、病院という枠組みの中で、オステオパシーを提供することの難しさを感じた経験でもありました。

 

最後まで、お読みいただきありがとうございました。

 

 

AUTHOR この記事を書いた治療師